なぜ猫たちは左向きで眠るのか? 最新の研究でわかった脳の仕組み

猫の寝姿を眺めていて、その「向き」が気になったことはありますか?
もし注意深く記録していたら、いつも同じ向き、それも「いつも左向き」だということに気づくかも知れません。
そしてそれは偶然ではなく、脳の仕組みに基づくものだという研究結果が発表されました。
今回は、その研究の内容、そして飼い主にとっての注意すべきことについてご紹介します。
猫が眠るときの向きに関する研究の概要と背景
今年6月に権威ある科学誌「Current Biology」に掲載されたその論文のタイトルは「Lateralized sleeping positions in domestic cats(イエネコにおける睡眠姿勢の左右性)」 。
この研究は、イタリアのバーリ・アルド・モロ大学、ドイツのルール大学ボーフム、ハンブルク医学部をはじめとする国際的な研究チームによって行われました。
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研究内容としては、「猫の睡眠時の姿勢に左右の偏りがあるのか」という動物行動学・神経科学的な視点からのアプローチです。
猫が眠る向きはYouTubeによって調査
この調査では、研究チームが実験室で猫を観察するのではなく、なんとYouTubeにアップされた408本の動画を使って解析されたそう。
一見おおざっぱな調査ですが、条件は次のように厳密に設定されています。
- 猫が完全に横向きで寝ているシーンであること
- 10秒以上同じ姿勢を維持していること
- 左右が反転された映像ではないこと(鏡像や編集済み映像は除外)
- 猫が単独で映っているシーンであること
このような条件を満たす動画を選び出し、それぞれの猫がどちらの肩を下にして眠っているのかを判定していきました。
インターネット上の「猫動画」を科学に活用するというユニークな手法が、この研究の特徴であり、現代的な点です。
猫は左肩を下にして寝ることが多い
調査の結果、408本のうち約3分の2の動画で猫が左肩を下にして寝ていたことが明らかになりました。
これは偶然ではなく、統計的に有意な偏りとされており、研究チームは「猫には睡眠時の左右性が存在する」と結論づけています。
研究結果のとおり、すべての猫が左向きで寝るわけではありません。
しかし、全体的に見れば「左を下にする傾向」が強いというのは確かなようです。
なぜ猫は左向きに眠るのか?
ここで気になるのが、「なぜ左なのか?」という疑問です。
この点について、研究者たちは脳の左右差(半球機能)に着目しています。
猫が左側を下にして眠ると、右側の視野(上側)がより開けた状態になります。
そして起きた直後に目から入ってくる情報は右脳に優先的に伝達されます。
この右脳は、空間認識や逃避行動、予測・警戒といった生存に直結する反応をつかさどっています。
つまり、危険への即応力を高めるために左を下にしている可能性があるというわけです。
飼い主さんにとっての実用的な意味は?
結論から言えば、右でも左でも「その子の癖」であれば心配はいりません。
ただし、「何気ない日常の風景にも意味がある」という点からは、学ぶべき点も多いのではないでしょうか。
たとえば、次のような変化があった場合。
- いつも左で寝ていた猫が、急に右しか向かなくなった
- どちらか一方の肩や足を避けるような姿勢が目立つ
- 寝起きの動きが鈍い、または極端に過敏になった
こうした変化は、関節や内臓の痛み、あるいは神経的な異常の可能性を示唆しています。
つまり、「寝姿の変化」は猫の健康を知る大きなヒントにもなりえます。
飼い主として、普段の寝方や姿勢をよく観察しておくことで気付けることがあるかも知れません。
今後の研究に期待されること
今回の発見は、あくまでイエネコの眠り方という限定的なものです。
しかし、研究者たちはここをスタート地点として、今後は次のようなさらなる展開を視野に入れています。
- 犬や他の動物にも左右性があるのか?
- 去勢・避妊の有無、年齢、性別との関連は?
- 病気や障がいのある個体では偏りが異なるのか?
今後、脳の構造や神経伝達のメカニズムを深掘りしていくことで、動物福祉や医療にもつながる可能性があります。
猫の寝姿というシンプルなテーマから、脳科学や行動学の最前線が見えてくる貴重な事例となるのかも知れません。
猫の寝姿から見える脳のはたらき
今年発表されたこの研究は、「猫の寝姿」という一見かわいらしいテーマから、脳のはたらき・生存戦略・行動の左右性といった興味深いテーマを導き出しました。
ただし、どちら向きで眠っていたとしても心配に必要はありません。
重要なのは、日々の観察から「何かあった時」のためのデータを常に集めておくこと。
もしも変化があったときは、その背景にどんな意味やサインが隠されているか、解明してあげることこそ、研究者ならずとも飼い主の責任かも知れません。
- 2025.09.16