ヒグマ出没が相次ぐ北海道 被害の実態と遭遇を避ける予防と対策

昨今、北海道を中心にヒグマの出没や人身被害が相次いでいます。
ときには住宅街や市街地にまで姿を見せ、農作物や家畜を荒らすだけでなく、尊い人命が奪われるケースも報告されています。
先日、北海道・知床半島の羅臼岳で登山中の男性がヒグマに襲われて死亡する痛ましい事故がありました。
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これは知床地域で63年ぶりとなる致命的なヒグマ被害として、大きな衝撃を与えました。
こうしたニュースは他人事ではなく、北海道に住む人や訪れる観光客にとっても切実な問題です。
今回は、ヒグマという生き物の生態から、遭遇を避けるための行動、そしてもし出会ってしまったときの対応までご紹介していきます。
ヒグマの生態
ヒグマは世界最大級の陸上肉食動物のひとつです。
とはいえ「肉食」という言葉から想像するような獰猛な捕食者ではなく、実際の食性は雑食性です。
春はフキやタケノコ、夏はベリーや草本、秋にはドングリやクリなどの木の実を食べ、動物性の餌としてはサケや小動物、シカなどを口にします。
食生活の7〜8割は植物由来であることが特徴です。
行動範囲はとても広く、特にオスの場合は100平方キロ以上に及ぶこともあります。
ただし、縄張りを強く主張するわけではなく、個体同士で行動圏が重なることも珍しくありません。
また、繁殖は6〜7月に行われ、メスは冬眠中に子を出産します。
母グマは子を守るために非常に攻撃的になり、この時期の遭遇は特に危険と言われています。
寿命は20〜30年ほどとされ、自然界の中では長寿といえる動物です。
ヒグマの出没が増えている背景
ヒグマの出没が近年増えている理由にはいくつかの要因があります。
ひとつは「餌不足」です。
ドングリなど木の実が不作の年には、クマは十分な栄養を蓄えられず、人里へ食べ物を探しに来る機会は増えます。
また、人間社会とクマの生息域が近づいていることも大きな理由です。
森林の開発や過疎化で山村の人の気配が薄れると、クマが人里に降りやすくなります。
さらに、近年はヒグマの生息数自体が増えているのではないかと指摘する専門家もいます。
特に若い個体が新たな行動圏を求めて移動する過程で人と遭遇するケースが増えているようです。
ヒグマとの遭遇を避けるために
ヒグマと出会わないための工夫は、登山やキャンプなどで山に入る人にとって必須です。
まず大切なのは人間の存在を知らせることです。
ヒグマは本来の臆病な性格もあり、人の気配を察知すれば多くの場合、自ら立ち去ります。
クマ鈴を鳴らす、ラジオを流す、話しながら歩くなど、常に音を発して行動することが推奨されます。
次に食べ物やゴミをヒグマの行動範囲に残さないことです。
食料の匂いは強力な誘因源であり、キャンプ場や車中に食べ物を置いておくとクマを引き寄せる危険があります。
食べ残しや生ゴミは必ず持ち帰り、現場に痕跡を残さないことが重要です。
また、山道では痕跡に注意することも大切です。
足跡や糞、爪痕、掘り返した跡を見つけたら、すぐに引き返す勇気を持ちましょう。
さらに、時間帯や季節にも配慮することも重要です。
朝夕はヒグマの活動が活発で、中でも秋は人里に出やすい傾向があるため注意が必要です。
事前に自治体の出没情報を確認する習慣も有効です。
そして最後に、常に備えること。
ヒグマに遭遇しえる場所では熊よけスプレーを携帯し、意識的に複数人で行動することが望ましいでしょう。
ヒグマと遭遇してしまった場合の対応
どんなに注意していても、100%ヒグマとの遭遇を避けるのは難しいのが現実です。
そのときにどう行動するかで、生死を分けることもあります。
ヒグマとの遭遇時に「走って逃げない」
まず、走って逃げてはいけません。
ヒグマは時速50kmで走ることができ、人が足だけで逃げ切れることは非常に困難です。
また、背を向けることも危険で、追撃のきっかけになります。
遠くにヒグマを見つけたら
遠くにクマを見つけたら、静かに後退して距離を取ります。
視線を合わせすぎず、「敵意はない」という姿勢でゆっくり立ち去ることが大切です。
眼の前にヒグマがいたら
突然ヒグマと遭遇してしまったら、まずその場で動かず落ち着くこと。
低い声で話しかけ、自分が人間であることを伝えます。
荷物を置いて気をそらすのも有効といわれています。
ヒグマが攻撃態勢に入ったら
こうなってしまったら、残念ながらできることは多くありません。
熊よけスプレーを使い、至近距離なら荷物を盾にします。
最悪の場合には地面に伏せ、頭部や首を腕で守りながら致命傷を避けることで、少しでも生存率をあげるほかありません。
ヒグマとの遭遇はケースバイケース
ここまで紹介した対策は、多くの専門家が推奨している「基本行動」です。
しかし、忘れてはいけないのはクマの個体差や状況によって結果は大きく変わるという点です。
子連れの母グマは極端に攻撃的になりますし、飢えたクマはリスクを顧みず人を襲うこともあります。
また、人間の食べ物を経験的に学習した個体は、通常備えていたはずの「臆病さ」を失い、積極的に近づいてくることもあります。
つまり「これをやれば絶対に安全」というマニュアルは存在しません。
あくまで対策はリスクを減らすための手段であり、その場の状況判断が不可欠です。
ヒグマと人の共存の形
ヒグマは北海道の自然を象徴する生き物であり、本来は人を避けて暮らす存在です。
しかし、環境変化や人間社会との距離の近さから、今や出没や被害が社会問題にすらなっています。
大切なのは、生態を正しく理解し、予防と備えを徹底すること。
そして、遭遇してしまったときは冷静に対応することです。
人間とヒグマが共存していくためには、自然を尊重しながらリスクを管理していくしかありません。
登山やアウトドアを楽しむ方はもちろん、これから北海道を訪れる方もぜひ頭の片隅に入れておいてください。
- 2025.08.18