忠犬ハチ公の物語 上野英三郎博士との出会いと5つのハチ公像

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渋谷のランドマークとして今や知らない人はいない「忠犬ハチ公」。
駅前の銅像は待ち合わせ場所としておなじみですが、そのエピソードを細かに把握している人は意外と少ないのではないでしょうか。

今回は、忠犬ハチ公の生涯と上野英三郎博士との絆、戦争と再建を経た銅像の歴史をご紹介します。

秋田犬、ハチ

ハチは今から102年前、1923年11月上旬に秋田県大館市で生まれた秋田犬。
当初の名は単に「ハチ」。
のちに飼い主である上野英三郎博士への忠誠心が広く知られ「忠犬ハチ公」と呼ばれるようになります。

秋田犬は日本原産の大型犬で、古くから猟犬や番犬として人と共に生きてきました。
ハチもその気質を持ち、博士に深い愛情を示していたそうです。

東京帝国大学(現:東京大学)教授、上野英三郎博士

ハチの飼い主である上野博士は、東京帝国大学(現:東京大学)農学部の教授でした。
上野博士は日本の農業土木学を確立した第一人者で、灌漑・排水や農村環境整備の研究を行いました。
また、博士とハチが出会う2年前、1922年には勲三等瑞宝章を授与されるなど、その功績は国家的にも高く評価されていました。

温厚で学生思いな人物としても知られ、研究だけでなく教育においても多大な影響を残した人物とされています。

ハチと上野英三郎博士の出会いと日常

ハチが博士のもとにやって来たのは、ハチが生後2か月の1924年1月のこと。
博士の教え子が秋田犬の仔犬を紹介し、博士は30円で購入しました。

当時の30円は現在の価値に換算すると7万5千〜8万円程度

博士とそのパートナーである酒井ヤエ子氏のもとで大切に育てられ、すぐに渋谷駅までの送り迎えが日課となっていきました。

上野邸の立地と駅までの道のり

上野博士の自宅は現在の渋谷区松濤一丁目、Bunkamuraの裏手あたりにありました。
渋谷駅までは徒歩10分程度で、博士は毎朝ハチとともに渋谷駅へ向かい、帰宅時には改札口でハチが待っていたそう。

今では考えられませんが、ハチは博士を見送ったあとひとりで家に帰り、博士の帰宅の時間にはひとりで駅に向かっていたのです。

上野博士の急逝と小林氏との出会い

ハチがまもなく2歳になる1925年5月、上野博士は講義中に急逝してしまいます。
突然の別れにより、ハチは主を失いました。

博士の死後、ハチを世話したのは元上野家御用達の庭師、小林菊三郎氏。
博士が亡くなったあともハチは毎日渋谷駅に姿を現し、博士の帰りを待ち続けました。

小林家も渋谷・代々木界隈に住んでおり、駅まで無理なく通える距離にあったため、ハチは生涯を通じて駅へ通い続けることができました。
この姿が新聞で報道されると、多くの人々が感動し、やがて全国的に知られる存在となっていきます。

ハチの晩年と死

博士の死からおよそ10年後の1935年3月8日。
ハチは渋谷駅近くで息を引き取りました。享年11歳でした。

その知らせは翌日の新聞一面で大きく報じられ、日本中が悲しみに包まれました。
現在、ハチの剥製は上野の国立科学博物館に展示されており、今も多くの人が訪れています。

渋谷のランドマーク、忠犬ハチ公像の初代と二代目

ハチの生前の功績をたたえ、1934年には渋谷駅前に初代ハチ公像が建てられました。
作者は彫刻家の安藤照氏で、除幕式にはハチ本人も参加したと伝えられています。

しかし、1944年に戦争の影響による金属回収令により供出され、浜松で機関車の部品として溶解されてしまいました。

戦後、安藤氏の息子、士(たけし)氏が二代目ハチ公像を制作。
1948年に再建され、現在の姿となっています。

初代像は失われたため完全なコピーではなく、父の作風を引き継ぎながらも新たに再解釈された作品です。
なお、戦後間もない当時、素材の調達もままならず、士氏は父照の作品「大空に」を溶かしてハチ像を制作したそうです。

世界に広がるハチ公の象徴性

忠犬ハチ公は、ただの犬ではなく「飼い主への愛と忠誠心の象徴」として今も語り継がれています。
渋谷駅前の銅像は、観光客や地元の人々の待ち合わせ場所として親しまれ、いまなお多くの人が写真を撮影しています。

また、大館市にもハチ公像があり、生誕地として顕彰されています。

5つのハチ公像

渋谷駅のランドマーク、渋谷駅ハチ公口前の「忠犬ハチ公像」のほかに、さらに4つのハチ公像があることはご存知でしょうか。

まず2つ目は、東京大学農学部キャンパス内にある「上野栄三郎博士とハチ公」像。
こちらは上野博士に飛びつくハチの姿を再現したもの。

3つ目は、上野博士の故郷、三重県久居元町「久居駅」前の「上野栄三郎博士とハチ公」像。
こちらは、いかにも活発そうなハチに上野博士が話しかけているような姿の像です。

さらに、ハチの故郷にあたる秋田県大館市にも3つのハチ公像があります。
ひとつは、大館市御成町「大舘駅」の「忠犬ハチ公像」。よく知られた渋谷駅のものと同じ、座り姿のもの。
そして、大館市三ノ丸「秋田犬博物館」前には4つ足での立ち姿の「望郷のハチ公像」。
さいごに、ハチが生まれた大舘市大子内の「忠犬ハチ公生家」には、座り姿かつ仔犬の「ハチ公」像。

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ハチという犬がどれほどの人に愛され、どれほど記憶に残る存在なのかがよくわかります。

忠犬ハチ公の物語と歴史的背景

忠犬ハチ公の物語は、単なる美談にとどまりません。
人と犬の歩んできた歴史、そして、戦争による破壊と戦後の再建といった歴史も重なっています。

博士を待ち続けたハチの姿は時代を超えて人々に語り継がれ、これからも渋谷のシンボルとして残り続けていくでしょう。

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