犬は笑う? 2つの笑顔と本当の気持ち

いつだったか「笑う犬の~」という大人気バラエティ番組がありましたが、実際の犬はどうでしょうか。
遊んでいるとき、リラックスしているとき、ふと口角が上がったように見えたことはありませんか?
これは専門用語で「社会的微笑(social smile)」と呼ばれ、肯定的な情動と関係していると考えられています。
今回は、そんな犬の「笑顔」について、科学的な視点と犬の行動学をふまえてご紹介します。
犬の「笑顔」はどんなもの?
犬には笑っているように見える表情がいくつかありますが、その中でも 「社会的微笑(social smile)」 と 「プレイフェイス(play face)」 は混同されやすい用語です。
人との関わりがもたらす穏やかな笑顔「社会的微笑」
人と接しているときに見せる「穏やかで友好的な表情」のことを指す、比較的ゆるい概念「社会的微笑」。
学術用語というより、行動学の説明で使われる「表情カテゴリー」に近い言葉です。
主な特徴はつぎの通り。
- 口元がゆるむ
- 口角が軽く上がる
- 表情全体が柔らかくなる
- 飼い主との触れ合いやリラックス中に出やすい
つまり「落ち着いた、優しい笑顔のような表情」です。
遊びの中で溢れる活発な笑顔「プレイフェイス」
「プレイフェイス」は、犬やオオカミの「遊び行動」において研究されてきた、明確な「遊びの表情」です。
こちらは動物行動学でしっかり定義されています。
主な特徴はつぎの通り。
- 口を大きく開ける(あくびより狭く、ハアハアより広く)
- 歯が少し見えることもある
- 目元が柔らかく、興奮と楽しさの表情
- プレイバウ(遊びのお辞儀)とセットでよく見られる
リラックスした状態を表す「社会的微笑」とは違い、「楽しいよ! もっと遊ぼう!」という強いメッセージを持つ活発な笑顔です。
笑顔に似ていても意味が違うケースも
犬の表情はとても複雑です。
ときには笑っているように見えて、実はそうではない場合もあります。
その代表が「ストレスパンティング」です。
暑さや運動量とは関係なく、ハアハアと舌を大きく出して激しい呼吸を繰り返す状態。
口が開いているので笑顔のように見えるものの、実際には緊張や不安、強い興奮をしずめようとしている体のシグナルです。
とくに緊張しているときのパンティングは、目が見開いていたり、耳が後ろに引かれていたりすることが多いです。
犬が笑っているかどうかを判断するときには、顔だけを見るのではなく、体の向き、しっぽの位置、耳の状態などを合わせて読み取ることがとても重要です。
犬が本当にうれしいときに見せるサイン
犬の笑顔をより正確に見分けるには、表情だけではなく、全身を見ることが重要。
犬たちは自分の気持ちを体で語ってくれる動物だからです。
もっともわかりやすいのは、柔らかい目つきと、しっぽがゆっくり左右に揺れるサイン。
これはリラックスしながら「とてもいい気分」と伝えていることが多いです。
体の動きにも注目すると、前足を軽く前に出すようなプレイバウ(遊びのお辞儀)をすることがあります。
遊びに誘うとき、うれしいとき、興奮が心地よいときに見せるポーズで、犬の「楽しい」が一番よく表れる行動のひとつです。
さらに、顔を飼い主の体にすり寄せたり、体重を預けてきたりといった動作も安心感のあらわれです。
うれしい気持ちが強いときは、ふわっとした息づかいとともに自然と笑顔のような表情が出てくることもあります。
犬の笑顔を引き出すためにできること
犬の笑顔を引き出すために大切なのは、安心できる暮らしと、ストレスの少ないコミュニケーションです。
毎日の散歩や遊びに十分な時間をとること。
トレーニングも叱るより褒める方を重視して、犬の「できた!」という成功体験を積み重ねていきましょう。
こうした積み重ねは犬の自信にもつながり、表情にも良い変化として表れます。
そして何より、飼い主さんとの信頼関係が深まるほど、犬は安心して感情を見せてくれるようになります。
信頼できる相手の前だからこそ、犬は表情をやわらかくし、心地よさを隠さなくなるのです。
犬の笑顔は愛情のサイン
犬が笑顔に見える表情を見せるとき、多くはポジティブな感情のあらわれです。
ただし、見かけ上の表情だけで判断するのは避ける必要があることも覚えておきましょう。
犬の気持ちは、表情・体の動き・状況の組み合わせで読み解くことが重要です。
犬は人と同じ仕組みで笑うわけではありません。
しかし、感情としてのうれしさや安心を伝える表情は確かに存在します。
これはまさに「社会性」、つまり長い共生の歴史の中で培われた「犬と人の間だけの特別なコミュニケーション」といえるでしょう。
ぜひこの特別な笑顔を、飼い主さんの毎日の愛情で守ってあげてください。
- 2025.11.06












