供血犬とは? 献血のリスクと寿命への影響

犬も人も、交通事故や大きな手術、自己免疫性溶血性貧血(IMHA)などの病気では、輸血が必要になることがあります。
そこで活躍するのが 「供血犬」と呼ばれる献血を行う犬たち。
でも、小さな体で献血を行うことに不安を持つ飼い主の方も多いのではないでしょうか。
今回は、供血犬の仕組みから健康への影響、海外の研究結果までわかりやすくご紹介します。
供血犬とは?どんな犬が献血できるの?
供血犬とは、他の犬の治療や手術のために血液を提供する犬のことです。
犬の血液型は、DEA(Dog Erythrocyte Antigen)という抗原の種類で分類されます。
特にDEA1.1陰性の犬は、どの犬にも比較的安全に輸血できる「ユニバーサルドナー」として重宝されています。
献血ができる犬には条件があり、一般的にはつぎの基準を満たすことが求められます。
- 体重が20kg以上で健康体
- 1歳以上8歳未満で、定期的にワクチン接種やフィラリア予防を受けている
- 内臓疾患や貧血などの持病がない
- 穏やかな性格で採血に協力できる
こうした条件をクリアした犬が動物病院や血液バンクで年に3〜4回程度、献血に協力できる仕組みです。
献血すると健康に影響するの?
結論から言うと、適切な量と間隔を守れば、献血によって犬が健康を損なうことは考えにくいでしょう。
犬の体は採血による血液の減少を補うためすぐに骨髄が働き、数週間以内には赤血球が再生されます。
赤血球の寿命は約100日程度なので、失った分は比較的短期間で補われます。
動物病院にもよりますが、多く場合、次のようなガイドラインが設けられています。
- 採血は最低でも8〜12週間の間隔を空ける
- 年間3〜4回まで
さらに、献血前には必ず健康診断と血液検査が行われ、その日に採血して問題がないかしっかり確認されるため、安全性は極めて高いといえます。
寿命は短くなる? 研究結果をチェック
では、繰り返し献血をすることで寿命への影響はあるのでしょうか?
現在のところ、供血犬が一般の犬より寿命が短いという疫学的データは存在しません。
むしろ、献血に協力する犬は定期的に健康診断を受けるため、病気の早期発見につながるというメリットもあります。
ただし、長期的な影響を完全に否定できるだけの大規模データはまだ不足しています。
ここからは、現在研究で明らかになっている部分をみていきましょう。
1. 犬の献血による有害反応は0.83%
ポルトガルやスペインの動物血液銀行が2020〜2021年に実施した研究では、4,439回の献血のうち有害反応はわずか0.83%。
主な症状は穿刺部の血腫(0.63%)、軽い出血(0.11%)、皮膚炎や一時的な虚弱症状など(0.09%)で、いずれも軽度で回復可能なものばかりです。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40176309/https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/40176309/
2. 骨髄の再生能力と鉄分状態の調査
アメリカの輸血医学研究では、1年間繰り返し採血された犬の骨髄再生反応や鉄分の蓄積状態を解析。
結果は、献血後も体は十分に回復し、赤血球数や臨床症状に大きな変化はなかったと報告されています。
3. 安全な採血量と生理学的影響
ブラジルの生物医科学研究では、総血液量の13〜15%の採血を行った際の血圧・脈拍の変化を観察。
軽度の変化は見られたものの、臨床的な問題は起こらず、安全に実施可能と結論づけられています。
4. 感染症スクリーニングの重要性
北米の獣医学会(ACVIM)は、供血犬が感染症を媒介しないように献血前の検査を徹底する国際ガイドラインを出しています。
輸血を安全に行うためには、ベクター媒介病や血液伝播病原体の検査が欠かせません。
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4913655/https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4913655/
供血犬活動のメリットとリスク管理
ここまでの研究からわかるように、適切な間隔と量を守れば、供血犬の健康リスクは非常に低いことが示されています。
むしろ、定期的な献血活動によって、
- 定期的に健康診断を受けられる
- 病気の早期発見につながる
- 社会的にほかの犬の命を救える
といったメリットがあります。
ただし、鉄分が減少しやすくなる傾向はあるため、必要に応じて栄養補給のフォローが推奨されます。
寿命に影響はほぼない
供血犬は、ほかの犬の命を救う大切な存在です。
現在の研究では、適切な採血頻度と健康管理を行えば、寿命に悪影響があるという根拠はないとされています。
それでも、長期的なデータはまだ十分ではないため、今後さらなる研究が期待されます。
もしあなたの愛犬が条件を満たしていて献血を検討しているなら、かかりつけの動物病院で一度相談してみましょう。
あなたの愛犬が、どこかの誰かの愛犬の命を救うヒーローになるかもしれません。
- 2025.07.17