黒猫はなぜ不吉? 古代エジプトから現代までの黒猫の神話と真実

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ハロウィンが近づくと、街の装飾やイラストにたびたび登場するのが「黒猫」。
しかし、なぜ黒猫は「魔女の使い」「不吉の象徴」として語られるようになったのでしょうか。

その背景には、古代の信仰、中世ヨーロッパの迷信、そして近代日本の文化輸入という3つの時代の流れが関係しています。

今回は、黒猫が不吉とされるようになった経緯を時代ごとに辿っていきましょう。

古代エジプトでは「神の使い」だった黒猫

バステト像の写真

黒猫が「不吉」とされるようになったのは実はごく最近の話で、古代エジプトではむしろ神聖な存在とされていました。

エジプトの人々にとって猫は、女神バステト(Bastet)の化身。
彼女は家族を守る守護神とされ、黒猫を飼うことは「神の加護を得ること」を意味しました。
猫がネズミやヘビを退治してくれる実用的な存在だったことも、信仰を強める要因のひとつです。

また、黒猫はその漆黒の毛並みと夜に溶け込むような姿から、太陽神ラーを守る存在とも信じられていました。
古代エジプトでは、太陽は夜のあいだ冥界を旅していると考えられており、その太陽を邪悪な力から守るのが黒猫とされていたのです。

富裕層の家では黒猫が特別に扱われ、金や宝石の首輪をつけ、死後は人間と同じようにミイラにされることもありました。
猫を殺すことは神への冒涜であり、死刑になることさえあったといわれています。

つまり、古代エジプトにおける黒猫は「不吉」どころか、家庭と生命を守る神にも等しい存在。
神々の加護をもたらす、まさに神聖な生き物だったのです。

中世ヨーロッパで生まれた「魔女の使い」というイメージ

黒猫のイメージが一転して「不吉」とされるようになったのは、中世ヨーロッパにおいてです。
この時代、キリスト教が支配的な宗教となる中で、異教の神々や自然崇拝の象徴は「悪魔的」と見なされていきました。

その過程で、夜行性で人に懐きにくく、闇に紛れて行動する猫、とりわけ黒猫は「魔女の使い魔(ファミリア)」 とされるようになります。
夜に光る瞳や、物陰から音もなく現れる姿が、当時の人々には「闇の生き物」「悪の象徴」として映ったのです。

14世紀になるとヨーロッパ各地で「魔女狩り」が盛んになり、黒猫を飼っている女性が「魔女」と疑われる事件も起こりました。
「黒猫が人の前を横切ると悪運が訪れる」という迷信も、この時代に広まったといわれています。

こうして、黒猫は「闇」「悪魔」「不吉」といったイメージで語られるようになりました。

とはいえ、すべての地域がそうではありません。
同じヨーロッパでも、スコットランドやイングランドの一部では、黒猫が家にやってくると「幸福の前兆」とする伝承が残っています。
黒猫の評価は国や時代によって大きく違ったというのも興味深い点です。

日本では明治以降「福猫」から「不吉」へ転換

日本でも「黒猫=不吉」というイメージを耳にすることがありますが、実はこの思想は近代になってから輸入された文化です。

江戸時代までの日本では、黒猫は縁起の良い存在とされていました。
「夜でも目が見える」「魔除けになる」といった理由から、黒猫は厄除け・商売繁盛・恋愛成就の象徴でした。

江戸期の書物には「黒猫を飼うと労咳(結核)が治る」「恋わずらいが癒える」といった民間信仰すら記されています。

ところが、明治期に西洋文化が流入すると状況は一気に変わります。
欧米からハロウィンや魔女の物語が伝わり、時として黒猫は「魔女の使い」「悪運の象徴」として描かれるようになりました。
こうした文学やイラスト、映画などのエンタメコンテンツの影響が徐々に浸透し、日本でも黒猫=不吉というイメージは急速に広がりました。

日本における「不吉な黒猫像」は伝統的なものではなく、20世紀以降に形成された近代的なイメージといえます。

再評価される黒猫

時代が進み現代。
黒猫は再び「幸運」や「癒し」のシンボルとして愛されるようになってきました。

たとえば、フランスの「ル・シャ・ノワール(Le Chat Noir)」という黒猫をモチーフにしたキャバレーは芸術家たちの社交場として有名です。
日本でも黒猫をモチーフにした雑貨やキャラクターは数多く存在し、根強い人気を集めています。

また、SNSやペット文化の発展により、「黒猫は写真映えしにくい」「怖い」といった誤解を解消する活動も増えました。
黒猫をテーマにした里親イベントや、保護猫カフェなども登場し、黒猫=不吉という古い迷信を覆す動きは広がり続けています

ハロウィンと黒猫の関係

そもそもハロウィンはもともと古代ケルト人の祭り「サウィン(Samhain)」に由来します。
この日は「死者の霊が現世に戻る夜」とされ、人々は火を焚き、仮装して悪霊を追い払いました。

その際、夜の闇や霊の象徴として黒猫が登場するようになったと考えられます。
つまり、ハロウィンに登場する黒猫は、不吉な存在というより「死と再生」「闇と光」というモチーフです。

現代では、ハロウィンの飾りやコスチュームに登場する黒猫もポップでキュートな存在として描かれています。
かつて恐れられた存在が、いまでは愛されるキャラクターへと変わったというのは、文化の変遷として興味深いですね。

黒猫のイメージは人の心が映す鏡

古代エジプトでは守護と愛の神の化身として崇められ、
中世ヨーロッパでは宗教と迷信が結びつき、魔女の使いとして恐れられ、
そして今、再びその美しさと神秘性で多くの人に愛される存在となりました。

黒猫は、人の心が恐れや希望を投影してきた鏡のような存在といえるのかも知れません。

ハロウィンの夜、ぜひあなたにとっての黒猫という存在に思いを馳せてみてください。

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