サビ猫(トーティ)の毛色と遺伝 三毛猫との違いと俗説

その個性的な毛色の美しさと、どこかミステリアスな印象で心奪われる人があとをたたない「サビ猫」。
黒と赤(オレンジ)が細かく混じり合った独特の毛色。
まるで金属の錆のような複雑な模様をまとったこの猫たちは、その遺伝にも深い秘密が隠されています。
今回は、そんな魅力溢れるサビ猫の特徴から遺伝学、性格までご紹介していきます。
サビ猫(トーティシェル)とは?
サビ猫とは、黒(こげ茶)と赤(オレンジや褐色)がまだらに混ざった毛色を持つ猫のことを指します。
英語圏では「ウミガメの甲羅」、つまりべっ甲柄を意味する「tortoiseshell(トーティシェル)」と呼ばれ、白色がほとんどないのが特徴です。
一見すると地味にも思えるかもしれませんが、光の加減で立体的に浮かび上がる色味はまさに芸術そのもの。
すべてのサビ猫たちが、唯一無二のランダムな模様を携えています。
なお、白が多めに入ると「三毛猫」、灰色やクリーム系の淡い色に置き換わると「ダイリュートサビ(薄いサビ)」と呼ばれます。
サビ猫の「サビ」とは?
「サビ猫」の「さび」は、漢字で書くと「錆」。
つまり、金属が酸化したときの錆模様に由来します。
黒や赤茶が入り混じる様子が古びた鉄の表面に現れる複雑な色味とよく似ているため、サビ猫と呼ばれるようになったと考えられています。
ちなみに、彼らのアンニュイな佇まいから「侘び寂び」の「寂(さび)」を連想してしまう向きもありますが、あくまで鉄サビに由来するという説が濃厚です。
オスのサビ猫は超希少?
サビ猫の毛色を決めるカギは、「オレンジ色」を作る遺伝子にあります。
この遺伝子はX染色体上に位置していて、胚の発生初期に起きるX染色体の不活化という仕組みで、部分的に働かなくなるX染色体が決まります。
メス猫はXXの染色体を持つため、一部の細胞ではオレンジ、別の細胞では黒が発現。
これが結果として、サビ猫の特徴である細かい斑(まだら)模様を生み出します。
一方でオス猫はXYなので、基本的には黒かオレンジのどちらか一色しか発現できません。
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例外的に、染色体がXXYのような特殊なパターン(クラインフェルター症候群)や、キメラ、モザイク個体では、オスでもさび模様が出ることがあります。
ただし、このようなオスのサビ猫は生殖能力がなかったり、低かったりする場合がほとんどです。
三毛猫(キャリコ)との違い
サビ猫と三毛猫はまれに混同されますが、白色の量に明確な違いがあります。
- サビ猫(トーティシェル)
- 白がほとんどなく、黒×オレンジのまだら模様
- 三毛猫(キャリコ)
- 白が多く、3色(白・黒・オレンジ)がくっきり分かれる
甲斐犬の黒虎(ブリンドル)とも似ているサビ模様
犬にも関心を寄せる方なら、甲斐犬の黒虎(くろとら)のような「ブリンドル」 との類似性も気になるはずです。
しかし、配色は似ているものの、模様の成り立ちはまったくの別。
甲斐犬の黒虎は、赤褐色の地に黒のストライプが規則的に入るのが特徴で、常染色体上の「アレル」によって決まります。
一方、サビ猫はX染色体によって生まれた不規則なパッチ(斑) のモザイク模様。
そのため、
- 黒虎
- 規則的な「縞」
- サビ猫
- 不規則な「斑」
という、明確な違いが生まれます。
サビ猫=気性が荒い?
英語圏では、サビ猫特有の性格を表す俗語として「tortitude(トーティチュード)」という言葉があります。
これは、「トーティ(サビ猫)は気が強い」という意味合いの造語、俗説です。
実際には、毛色と性格に強い相関があると示す科学的根拠はありません。
性格は遺伝よりも、育った環境・社会化の度合い・個体の気質などに左右される部分が大きいとするのが一般的です。
日本でも「黒猫は不吉」「白猫は神聖」などの俗信はありますが、サビ猫に対する俗説はあまり一般的ではありません。
生物学が生み出したサビ猫という名のアート
サビ猫とは、黒と赤の錆色が織りなす唯一無二のアート。
三毛猫と近縁でありながら白を含まない抽象的な模様には、他ではお目にかかれない独特の奥ゆかしさがあります。
ただし、その魅力はその子のビジュアル面、ごくごく一部でしかありません。
毛色に縛られることなく、その子自身の魅力に寄り添ってあげてください。
- 2025.08.27