トリマー求人サイトに見るペット業界ブラック企業の闇

子供たちのなりたい職業ランキングで上位に選ばれることも多く、動物が好きな人なら一度は夢見る職業でもある「トリマー」。 しかし、いまこの業界が「ブラック企業」の巣窟となっています。
今回は、一見華々しいペット業界の現状を紹介したいと思います。
「3K」が付きまとうペット業界
ブラック企業の「3K」といえば「汚い」「きつい」「危険」の3つ、劣悪な労働環境をを指す言葉。 トリマーというと「ペットの美容師」というイメージが強いため、いまいちピンと来ないかも知れません。
しかし、昨今では一頭に数時間かけて行うグルーミング(トリミング)だけでは利益を出せないペットサロンが増えており、多くは利益率が高く集客力にもすぐれた「ペットホテル」を導入しています。 こうなると、トリマーが出勤して一番に行う仕事は糞尿にまみれたケージの掃除と、同じく汚物まみれになった犬たちのシャンプー。 「ペットの美容室」というイメージを持って業界に入った多くのトリマーがこのギャップに苦しんでいます。
さらに、国内では長らく犬の狂犬病が見つかっていないことから、狂犬病の予防接種を受けていない犬も多数見受けられます。 動物病院でさえ、法律で義務付けられているにもかかわらず「国内ではまずありえないから受けなくていい」というところや、ひどいところでは「どうせ発症しないから」と栄養剤を注射してワクチン代をまるまる利益にしているところもあるのだとか。
噛まれて怪我をするリスクだけでも「危険」なのに、狂犬病感染の恐れさえ完全には拭えないのです。
ペット業界の長時間労働
「3K」のこともあり、多くのペットサロンではトリマーが不足しています。 少ないトリマーでお店を維持しようとすると、自然と一人あたりの労働時間は増え、特に客足の多い休日は息をつく間もありません。
低賃金のトリマー
日本はペットに関する意識で欧米諸国に大きく遅れを取っていると言われています。 例えば犬のトリミングの適正価格、いくらだと思いますか? 多くの人が「人間の美容室より高い」と知ると驚くのです。
しかし、犬は人のようにじっとはできません。暴れることも、噛むこともあります。 全身に毛が生えているため、人より多くの時間を費やします。 これらを考えると人より高くて当然なのですが、トリミングのことを「ただのファッション」と考える人にはなかなか理解してもらえないのが現状です。
トリミングはただのファッションではなく、犬種によっては生きていく上で欠かせないもので、広義での医療行為とさえいえるかも知れません。 犬に服を着せることさえ、必要なことなのです。 「自然界では服を着てない! 動物なのに不自然!」と思われるかも知れませんが、トイプードルのような人の手を加えて品種改良を繰り返してきた犬種は、もはや自然界では生きていけない「不自然な生き物」なのです。 放っておけば伸びた毛が絡まって首を絞め、死に至らしめることさえあります。
その一方で寒さにも弱く、苦肉の策として服を着せているというのが真実です。 プードルでお馴染みの、体の節々に丸い毛玉を残したコミカルなカットも、冷えてしまいやすい関節を守るための、あくまで必要な措置ですが、多くの日本人はこれらを知りません。
ペット業界のブラック企業体質
上記の問題に加え、ペット業界の経営体質にも深い闇があります。
いわゆる「ブラック企業」が生まれる背景には大きく分けて2パターン、
- 悪意を持って利益のために法を犯す
- 悪意はないが何も知らず、法整備のなされていなかった昔の感覚のまま方を犯す
があります。 ペット業界の経営者にはもともと叩き上げで成り上がった後者の経営者が多かったのですが、昨今のペットブームを受け、前者の経営者も増えてきました。 (同時に、他業種からまっとうな経営者が参入してきたことで、若干改善されつつもある現状です。)
では実際の求人サイトを見てみましょう。
トリマー求人最大手「トリマーJP」
ここでは国内でもっともメジャーと思われる大手トリマー求人サイト「トリマーJP」を見てみましょう。
ここでは全国でもっともペットサロンが多く、もっとも最低賃金の高い「東京都」の求人に絞ってみていきます。
なお、2017年9月25日現在の東京都の最低賃金は昨年10月に引き上げられ「907円」。 さらに来月10月1日からはさらに引き上げられ「932円」と定められています。
1ページ目から雲行きが怪しい
トリマーJPは1ページにつき20件の求人情報と、3件のPR求人情報が掲載されています。 すべてをチェックするのは難しいため、1ページ目のみをチェックしていたのですが、さっそく
- 月23日勤務
- 勤務時間 9:30~19:00
- 月給 12万5000円~(試用期間12万円)
という八王子市の求人情報がありました。
休憩時間が1時間として1日8時間30分労働、月23日勤務で195時間30分の労働時間で時給に換算すると640円にも満たない賃金ということになります。 高い学費を納めて専門学校を卒業した技術職で、この待遇ははっきりいって異常です。
極端に違法色の強いものは上記のみですが、その他19件の求人情報については
- 時給1000円が8割
- 時給932円が2割
程度の割合となっていました。 いずれも専門職としては決して高いとはいえない賃金です。
海外のトリマーのお給料は?
東京と比較するため、海外の求人サービス「Indeed.com」でトリマーの給料を調べてみたところ、ニューヨークでの平均は約59,684ドル/年。 ニューヨークの最低賃金の15ドルとの対比で日本と比較してみようと思ったのですが、アメリカは労働者のデモ等盛んで、ここ数年で大幅な最低賃金アップに踏み切っています。 そこで、現地「マクドナルド」のビッグマック単品の値段で比較する「ビッグマック指数」を見てみましょう。 なお、ニューヨークの「年収」と揃えるため、東京の「時給」は月23日勤務、1日8.5時間労働で算出しました。
時給 1,000円 * ( 8.5時間 * 23日 * 12ヶ月 ) = 時給 1,000円 * 2346時間 = 年収 2,346,000円
東京 | ニューヨーク | |
---|---|---|
給与 | 時給1,000円(≒2,346,000円) | 59,684ドル |
ビッグマック単価 | 370円 | 5.3ドル |
ビッグマック指数 | 6,341ビッグマック | 11,261ビッグマック |
上記からニューヨークのトリマーは東京のトリマーの約1.8倍の給与と考えることができそうです。 さらに、アメリカには「チップ」の制度もあるため、実際的な差はさらに大きなものとなるでしょう。
でも少しずつ良くなっている業界
当記事はもともと昨年の10月に書き始め、調査等に少しずつ時間を掛けながらようやく公開に至りました。 執筆を開始した当時に調査した際、求人情報1ページ目20件のうち、実に半分弱が最低賃金を割っている状況でした。
その頃と比べると、現在少しずつですが間違いなく労働環境は改善しつつあります。 その背景には、
- 他業種からの新規参入
- ペットブームによる業界自体の活性化
ももちろんありますが、少なからず先の「トリマーJP」のような求人サイトが最低賃金更新の度、周知を徹底するなど企業努力あってこそと思われます。 これからもペット業界全体で、ブラック企業、違法労働に対して声を上げ、自浄作用の働く健全な業界にしていきたいですね。
- Updated on 2025.04.18
- published on 2017.09.21